東京地方裁判所 平成12年(レ)213号 判決
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金六万二〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二事案の概要
一 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が差し押さえた控訴人名義の銀行預金債権のうち、心身障害者福祉手当分については差押えは許されないとして、右手当分六万二〇〇〇円の返還を求めた事案である。
二 争いのない事実
被控訴人は、平成一一年九月一〇日、被控訴人を債権者、控訴人を債務者、株式会社住友銀行を第三債務者とする東京地方裁判所平成一一年(ル)第九〇六八号債権差押命令(以下「本件差押命令」という。)に基づき、株式会社住友銀行千住支店の控訴人名義の普通預金口座(口座番号〇一七九一九五、以下「本件預金口座」という。)の預金債権六万二一九一円を差し押さえ(以下「本件差押え」という。)、引き落とした。
三 争点
本件差押えが差押禁止債権の差押えに該当し、違法、不当であるか。
1 控訴人の主張
(一) 本件差押えにかかる金員のうち六万二〇〇〇円は、控訴人が東京都葛飾区から葛飾区心身障害者福祉手当条例(以下「福祉条例」という。)に基づき支給された平成一一年四月分から七月分までの四か月分の心身障害者福祉手当である。
(二) 福祉条例には差押禁止を定めた規定はないが、身体障害者福祉法四五条は、「この法律による支給金品は、既に支給を受けたものであるとないとにかかわらず、差し押さえることができない。」と規定しており、同法と目的を同じくする福祉条例においてもその給付金は差押禁止と解すべきであり、右手当は、民事執行法一五二条一項一号に定める差押禁止債権に当たる。
(三) 右支給は、通常、金融機関への振込みにより支給されるのであり、振込後に預金債権に形を変えた場合にも差押禁止と解さないと、差押禁止の趣旨は無意味となる。
(四) 本件預金口座は、福祉条例に基づく心身障害者福祉手当(以下「福祉手当」という。)などの専用口座であり、差し押さえられた金員は、その口座の記録から福祉手当であり他の預金債権と異なることが明確である。
(五) 控訴人が本件差押命令を受領したのは平成一一年九月一四日であり、本件差押えは同月一〇日であったのであるから、事前に差押えを回避し又は異議申立てをすることは不可能である。
(六) よって、本件差押えは違法、不当である。
2 被控訴人の主張
被控訴人が差し押さえたのは、福祉手当ではなく、銀行預金債権である。一旦銀行預金口座に振り込まれた金員は、入出金、他の支店や他の金融機関への移動を考慮すると、どれが福祉手当の部分であるか識別できず、差押禁止債権としての属性は承継しない。よって、銀行預金口座は、その振込原因にかかわらず、全額を差し押さえることができる。
第三争点に対する判断
一 前記第二の二の争いのない事実に加え、甲第一ないし第五号証及び弁論の全趣旨によれば、東京都葛飾区は、平成一一年八月二〇日、福祉条例に基づいて、福祉手当として六万二〇〇〇円を本件預金口座に振り込んだこと、被控訴人は、同年九月一〇日、本件差押命令に基づいて、本件預金口座の預金債権六万二一九一円を差し押さえ(本件差押え)、その後、控訴人に対する請求債権に充当したことが認められる。
二 しかしながら、仮に差押えが禁止されている債権であっても、それが一旦受給者の預金口座に振り込まれた場合には、その法的性質は当該銀行に対する預金債権に変わるものである上、執行裁判所としては当該預金の原資を知ることは困難であること、債務者の救済は差押禁止債権の範囲の変更の申立て(民事執行法一五三条一項)によることもできること等を考慮すると、本件差押えを違法、不当とまではいうことはできない。したがって、前記控訴人の主張は採用することはできない。
三 よって、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小泉博嗣 裁判官 齋藤憲次 裁判官 上原卓也)